フェア概要

“魔女”という言葉を聞いたとき、あなたはどんな人物を思い
浮かべますか?
このフェアでは、魔女が登場する北欧各地の児童書の他、
昔話・民話・神話を扱った書籍なども揃え、キリスト教普及
以前から北欧各地に息づく“魔女”の姿をご紹介しました。

イベント紹介
右は、フェア期間中に開催された
『 雪が降る日のイラスト展 』 及び
『 あったか小物の展覧会 』 の様子です。
このあたたかな雰囲気の中で 『お茶の時間』 も
開かれました。
リーフレット紹介
スーザン・プライスと北欧神話 金原瑞人
五感の開く島―白樺島 野和子
7年ぶりで白樺島に行った。
白樺島は、ゆっくり歩いても1周するのに10分もかからない小さな島。
『50年前と何も変わらない』という島にあるのは、丸太作りのシブイ母屋と湖に
はりだしたサウナ小屋、それにハーブや野菜、ベリー類がなった小さな畑である。
この夏、フィンランドに行ったのは3年ぶりだったけれど、前回は白樺島にはタイ
ミング悪くいけなかったのだ。
14年前に初めて私は夫と7歳の息子とともにフィンランドを訪れた。夫は気孔と
東洋思想を教える仕事をしており、向こうでその講習を、と頼まれたのだ。フィンラ
ンドと聞いて、胸に深く響くものがあった私は、息子とともにくっついて行って贅沢
にも一ヶ月、丸々、フィンランドを北から南まで旅して歩いた。そのとき縁あって知
り合って、以来親しくお付き合いするようになったのが白樺島の持ち主、ヘイノネン
一家だった。
お母さんのイリヤは当時56歳で、中学校の先生をしていた。夫を亡くした彼女は
末娘のペトラ(シングルマザーで2歳の男の子がいる)と暮らしていた。ヘルシンキ
から車で2時間ぐらい北に行った小さな街ラハティに暮らしているが、休暇には白樺
島に行くのをイリヤたちはいつも楽しみにしている。
ラハティの家も森に囲まれた緑の一軒家で、広い庭にはラズベリーやブラックカラ
ントなどのベリー類が豊かに実り、摘み立てのそれはベリーのおどり食いと言いたい
ほど新鮮で、口の中でプチプチはねる。
夏、ラハティの家に泊まると、夕方のベリー摘みが日課となる。翌朝のためだけで
なく、やがて来る長い冬の間の貴重なビタミン源として冷凍保存しておくのだ。
庭に七本あるリンゴの木には秋になると、これまた、たわわに実がなる。今年も山
ほどとれたのは良いけれど、ジャムやコンポートなどの保存食づくりに追われて、
「いやぁ、もうタイヘン!」という電話がイリヤからあったばかりだ。
そんなラハティの緑の家のくらしも悪くないけれど、白樺島の魅力はやはり特別で
ある。
ラハティの家から約1時間、車でドライブすると、海のようにどこまでもはるかに
広がった大きな湖の岸辺に着く。そこからモーターボートで約20分いくと白樺島だ。
電気もガスも無い島。夏は白夜なので,電気が無くても夜11時くらいまで明るいし
煮炊きは薪ストーブ。水はクリーンな井戸水を使う。
水道というものが無いので、朝起きたらまず湖に行って顔を洗うか、裸になって朝
風呂ならぬ一泳ぎをする。北の国なので水はけっこう冷たいけれど、目が覚めること
は間違いない。
目覚めた身体で母屋に入ると、イリヤのいれてくれたコーヒーのいい香りがする。
私もテーブルのセッティングを手伝う。白木の大きなテーブルの真ん中に、パンを
盛ったカゴと、チーズが4種類ぐらいのった大皿を置き、各自のお皿やコップを並べ
る。
まず食べるのはいつもヨーグルトからだ。イリヤに言わせると「ヨーグルトは胃を
開いてくれる。」のだそうだ。つんだばかりのブルーベリーやラズベリーなんかの実
を入れる。甘みに添えるハチミツが、バターかと思うほど濃くて、ネバリ気がある。
全然水っぽくないのだ。対岸の島でミツバチを飼っている家族がいて、そこでとれる
ハチミツだという。
パンも市場で買った手作りのものが多いけれど、近くの島で毎朝2時に起きて薪の
カマで焼いているヘイツキおじさんの手作りパンにありつけたときは幸運である。
庭のトマトとキュウリを丸ごと置いた大皿もあって、「自分でお好みにドーゾ」と
ナイフが添えられている。好みのパンにバターを塗り、好きなチーズをのせ、そして
キュウリやトマトを一番上に、というオープンサンドがこの家のスタンダードな朝食
スタイルだ。どのチーズもパンもそれぞれ試してみたいので、朝からつい何枚も食べ
てしまう。
そんなわけで、朝ご飯もいいのだけれど、私がイリヤの家で一番楽しみにしている
のは午後のお茶の時間だ。
薪をくべて、夕方のサウナが準備できるのを待つあいだ、庭のテーブルでクッキー
をつまんだり、外にしつらえた炉でパンケーキを焼いたりしてお茶を飲む。紅茶の日
もあるし、つみたてのミントのお茶の日もある。夕方になると鳥の声がひときわ高く
聞こえ、遠くにはやはりサウナを焚いている対岸の小屋から出る煙が見える。
時間はゆっくりと流れ、特別に大きなできごとが無くても白樺島の一日はとても
豊かだ。
サウナを焚くことも楽しい。少しの新聞紙と、はがした白樺の木の皮で火をつけて
いくのだが、パチパチとはじける薪の音とそのかぐわしさ。やがて熱くなったサウナ
に入り、ほてった体を湖に飛びこんで冷ます。水はトロリとやわらかく、肌にまとわ
りついて染み込んでいく。ひと泳ぎしてから、またサウナに戻るとき、ヌメッとした
湖の底に足の裏が触れたときのちょっと怖いような感覚。
白夜といっても夕暮れは遅くだが確実にやってくるので、湖に張り出したサウナの
ベランダで空が黄金色からバラ色、そしてやがて陽が没していくのをただボーと見る
幸せ。ときにはサウナのあとローボートでどこまでもつながった湖の散歩に出ること
もある。風の具合でオールへの力加減が微妙に変わる。
白樺島に一週間いると、五感が確実に磨かれていくのが自分でも解る。
食べ物の味、雨の匂い、風の向き。まずそんなことにとても敏感になる。自分は人
でもあるけれど、あの岩にとまっている鳥かもしれないし、足元をあうアリンコかも
しれないし、目の前で泳ぐ魚かもしれないというフシギな感覚に襲われることもある。
イリヤはここにいると、特別な存在の気配をよく感じるという。それはもしかしたら
フィンランドの人がいうトントゥ(森の小人)か、妖精なのかもと思うけれど、具体的
にどんなカタチをしているのかは、イリヤは笑ってはっきり言わない。
フィンランドには森の守り神がいて、その存在が自然や生き物たちを世話してくれて
いると、人々は今でも信じている。
白樺島にいるごとに鋭くなっていく自分の五感を感じると、にわか魔女かトントゥ
にでもなれそうな気もしてきて、夕食のスープをかきまぜながら
「よーし、わたしも魔女ワザをきわめるぞ!」
とハーブの調合に凝ったりするのである。
☆本文中に登場するThe sterkarm Handshakeは2003年に東京創元社より『500年のトンネル』
として出版されています。
(※このプロフィールは2002年10月当時のものです。)
(※このプロフィールは2002年10月当時のものです。)